夢経さんの家

海遊び雑記(二編)


海遊び雑記(古い二編)
 平成十一年の、海で遊んだ記録が出てきた。二編をまとめて残しておくことにした。
    
   社員旅行で体験ダイビング

 十月二十三日。私の所属する部署は、毎年変わった社員旅行をしている。利根川上流でのラフティングや、那珂川でのカヤックなどである。今年はスキューバダイビングをすることになり、一泊二日で伊豆の宇佐見海岸へ出掛けた。
 参加者は十一名、部員ほとんど参加で男性九名女性二名だった。私を含め三名はライセンスがあり、ダイビングを経験していたが、他の八名は初めてのトライであった。みんなの様子は、極度に緊張した人、ノー天気の人、様々だった。
 最初にインストラクターから、潜水器具の使い方や潜水時の注意など、一通りの講義を受けてからビーチに出て、ウエットスーツに着替えた。みんな、はしゃいでいる。験者三名もドライスーツを着て準備に入った。いよいよ、ボンベを背負いフル装備をする。
「重い、結構重いな」
「海に入れば軽くなるよ」
「ああそうか、わかったよ」
よたよたと、アヒルのような足取りで海に入る。
「ああ、軽くなった」
インストラクターの先導で、水深三メートルくらいの場所まで、シュノーケルを使って泳いでゆく。ダイビングスポットに到着するとシュノーケルを外し、ボンベにつながったマウスピースをくわえる。
「息はできていますね?潜水しますよ。スタビの空気をゆっくり抜いていきます。耳抜きをしながら、ゆっくりと潜水してください。底に着いたら動かないでいてください」
なかなか沈めない人も、インストラクターの手助けを得て潜水した。
 目の前のすべてが水族館になってゆく。鼻をつまんで耳抜きをする。水中で息ができていることに、今更ながら気づく。上を見上げると水面がキラキラと光っている。別世界の無重力に包まれたのだ。我々三人も周りで見ている。
 インストラクターの合図で、フィンを使いゆっくりと移動する。カシメ類の海草に小魚が群れていた。二十分ほど水中散歩を楽しむと、浮上の合図が出て水面に顔を出す。またシュノーケルをくわえてビーチに戻った。体験後の感想は、(なかなか良かった)との意見がほとんどを占めた。
 いつもの社員旅行は、宿泊日に夕食を兼ねた宴会が開かれ、かなりの盛り上がりを見せる。しかし、何と今日は午後九時には消灯睡眠となり、すこぶる健全な宴会で終わった。みんな相当疲れたようだった。
 翌日、四名が体調不良とのことで、ダイブの中止を申し出た。残りの七名は、前日より深い場所でのダイブに挑戦した。私の経験では、二度目のダイブは一度目に比べると、かなり楽にこなせるのである。案の定、水深計やコンパスを見る、ゆとりのできた人もいた。残念なことに、新たにライセンスを取って、ダイバーを目指すという人はいなかった。大きな理由は、(日々の生活で、いろいろ出費が掛るから)とのことだった。実際この遊びは、お金が掛るのだ。
 その後、海辺でバーベキューを楽しんだりして、新しいスタイルを指向した社員旅行は、今度も大成功であった。

    下田沖の釣り

 十一月十四日朝六時、釣宿に着いた。あれこれ準備をして七時頃出船。お馴染みのS氏とI氏、他私を含め総勢6人の、にわか釣り師の出陣である。
 晴れた日、海の朝は美しい。深いマリンブルーの空が、水平線から次第に光を増し、コバルトブルーに明るんでくる。新しい光は近くの雲を金色に輝かせ、やがて太陽は昇る。明くなった海風の中で釣り師達は準備を始めた。コマセ籠下、二mほどのハリスにセイゴ針がついている。釣りの対象はイナダである。期待を乗せた船は飛沫をあげた。
 漁場にはすでに数隻の舟が集まり、それぞれに糸を垂れていた。波高二メートル、船はかなり揺れている。合図と同時に、いっせいに五十メートルの深さまで籠を落とす。各自がバラバラに落とすと、糸が絡まりやすいのだ。大きく上下に竿を振り食いを誘う。左舷右舷とも各三名、コマセの散らばり具合からか?真ん中が良く釣れていた。
 私にはさっぱり当りがない。何度もコマセを付け変え、竿を振っていた。
「きた!」
奮闘一時間、やっと私にも食いがでた。かなりの引きである。必死に巻いているのだが、魚の引きが強くルールが空回りをして、さっぱり巻き取れない。手巻きで五十メートル巻くのは結構疲れる。何とか二十メートルほど巻くと、魚も疲れたのか、リールの手応えが軽くなった。更に巻いてゆくと、水面近くでもう一度あばれる。ここまでくれば、糸は太いので難なく取り込める。六十センチ超のイナダだ。
急いで針を外してまた仕掛けを投げ込む。
「きた!」
今度は巻きが軽かった。淡々と糸は巻き取れてゆく。水面近くで魚が走った。ソーダガツオである。この魚は船に引き上げると、小刻みに震えてすぐに死んでしまう。結局、目的のイナダは八匹しか釣れず、私の釣果は一番ふるわなかった。
 帰港する時間は早く感じる。魚でいっぱいになったクーラーは重い。二人一組になって桟橋に引き揚げた。陸に立っても体はまだ揺れている。獲物のほとんどはイナダなのだが、他にカワハギ、シイラ、ソーダガツオが混じり、合計七十匹以上の快挙だった。
 乗った釣船は新聞社の提携船になっていたので、我々の釣果が翌日、デイリースポーツの釣り欄に小さく載った。そこには、
「伊豆下田沖、イナダ好調。
‥‥素人でも八十匹の大漁‥‥」
と書かれていた。