夢経さんの家




  

ドレミの冒険(火星編)
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ドレミの冒険(火星編)
 今年四つになる、みずほちゃんは、みんなにドレミと呼ばれています。お姉さんのヒニョリくん、妹のムシムシちゃんとの三人姉妹です。お父さんのバボン博士とボッコお母さん、みんなで五人の家族です。

 博士がベランダで育てている、ナスやシシトウに水をかけたり、ペットのゼニガメにエサをやるのが、ドレミの毎日の仕事です。
 八月のある熱い夜のことでした。眠れないドレミが耳をすましていると、ベランダで何か話し声がします。そっと起きだして近付いてみると、ナスとゼニガメが話しをしていました。

「準備はいいかい、カメゴン?」
「OK。いつでもいいよ、ナス小僧」
 とつぜんベランダは赤い光につつまれ、シシトウの一つが、みるみるふくらみ、緑色のロケットになりました。カメゴンも三人のナス小僧も、人間の子供と同じくらいの大きさになって、ロケットに乗っています。ドレミは黒い大きな、ごみ袋をかぶってナスにへんそうして、ロケットにもぐりこみました。



 ポンプツ、プツポン、キューンキュン。
 ベランダからロケットが飛びたちました。シシトウの種が一つずつ燃えながら、ロケットは高速で飛び続けます。種の燃料が半分燃えつきたころには、もう火星の近くまできていました。
 ロケットの中では、ナス小僧の人数が、一人多いので大騒ぎです。とうとう、ドレミは正体がばれてしまいました。毎日水をかけてもらったり、エサをもらっているので、怒るわけにもいきません。いっしょに火星に、着陸させることにしました。
 火星には大昔、地球から移住してきた豆たちが、ラッカセイ人と呼ばれ、平和に暮らしていました。ところが、去年どこからかやってきた怪獣に、町をこわされ平和がおびやかされていたのです。この国のピーナッツ大統領に手紙をもらったカメゴンたちは、怪獣を調査して退治する方法を、いっしょに研究するためにやってきたのでした。
 スロトコ、ストコロ、ドッスンコ。
 大きな音をたてて、ロケットは着陸しました。火星ではピーナッツ大統領が、みんなが着くのを待ちわびていました。待ちながらあまり歩き回って、ピーナツクリームになってしまうほどでした。
 たくさんのラッカセイ人たちに迎えられ、地下の対策本部におりて行きました。スクリーンには、大暴れしている怪獣が写しだされています。とつぜんナス小僧が叫びました。
 「あれは俺たちをいじめる、地球のアブラムシにそっくりだ」
するとカメゴンが言いました。
 「いつも博士が、かけてくれる殺虫剤を積んできたから大丈夫」
 「よーし、これで退治しよう」
 みんなは、いそいでロケットにもどり、空から怪獣めがけて殺虫剤をふんしゃしました。ところが、怪獣はますます元気になるばかりか、殺虫剤でラッカセイ人たちの家まで、溶けています。おいしそうに、殺虫剤をなめている怪獣をみながら、みんなは、こまってしまいました。
 そのとき、ドレミのポケットからナナホシテントウ虫が、はい出してきました。ゴミ袋でへんそうした時に、紛れ込んでいたのです。ドレミが言いました。
 「カメゴン!これにおまえたちが大きくなった、赤い光線をいっぱいかけてごらん」
 カメゴンとなす小僧たちは、光線をかけ続けました。光を浴びたテントウ虫は、どんどん大きくなってゆきました。ひげをピクピク動かすと、とつぜん、かたい羽を広げて、いちもくさんに怪獣のところに飛んで行き、怪獣を食べてしまいました。



 らっかせい人たちには、オカッパ頭のドレミが、たいそう偉く見えました。カメゴンは、得意顔です。ナス小僧たちときたら、身体中ピカピカ黒く光らせておおいばりです。



 ラッカセイ人たちは大喜びをして、町中が、いろんな豆踊りの、カーニバルになりました。大統領も大喜びで、めずらしい豆料理を、たくさんごちそうしてくれました。もう食べきれません。そろそろ別れをつげ、帰ることにしました。
 ロケットは地球に向かい出発しました。種の燃料がなくなるころ、ベランダの発進基地に着きました。
 プシュー、ヘロヘラ、ヒーラヒラ。
 青い光りにつつまれると、カメゴンやナス小僧たちは、もとの姿になっています。あたりはすっかり明るくなり、ドレミはべランダに立っていました。
 朝になってみんなが起きてきました。ドレミは得意になって、冒険の話しをしましたが、笑って笑って、だれも相手にしません。カメゴンは水槽の中で寝ているし、ナス小僧たちは、ナスの木にぶら下がったままです。ドレミはいっしょうけんめい話しをしましたが、とうとう信じてもらえませんでした。
 しかし、バボン博士だけは、種のぜんぜん入っていないシシトウが一つだけ、少し焦げてぶら下がっていることを知っていました。